「ひょんの木」

 子どもの頃からの付き合いだけれども、この木は喋る。ひょんひょん喋る。風のあまりない、太陽の出た、穏やかな青空の、暑過ぎない暖かい日。自然それは、春の端っこに少しと、秋にそこそこ、それからもしかしたら冬の限られた時間、くらいしかなく、今年は秋が短かったから、本当にちょこっとだ。ひんやりとする下草にお尻をつけて、ごつごつした幹に背もたれて、本を読んでいると、幹の、ちょうど私の頭の高さと同じくらいの、中のほうから聞こえてくる。ひょんひょんひひひょひょん。その大きな姿から聞こえてくる意外と高い声は、私には何を言いたいのかさっぱり分からない。私は木ではないのだし。それでも考えてしまって、考えていると私の心は文章から離れてうとうととし、文字はひょんひょんと持ち場を離れ、ここで昼寝をするとまったく、変な夢ばかり見る!

第127回500文字、競作「ひょんの木」