「出していたらタコ被りだった頭蓋骨を捜せ」

 わたしにぴったりなのが見つかったと思えば中には確実に先客が入っている。とかく世の中とは上手くいかないものである。あちらによさそうなのがありましたよ、などとわたしがいってもあからさまにあやしい。魂胆まる見えというものだ。だいいち嘘はいけない。かといって力で押そうにも……もたざるものの弱さといったらない。


 予感がして磯の方へ行くと、薄い水面にゆらゆらとゆれる。開かない幕の向こうの、こうこうとしたわたしの理想。やはりふっくらと満ちていた。夢想家といわれようと、手の届かないものこそに惹かれる。わたしはうっとりと願うばかりだった。そしてふと伸ばした足がそれに触れたのだった……。


「入ってる?」
「ああ」
「いやあぁっ」
「いやってお前……」
「出てきたぁ」
「タコだって食われたいわけじゃなかろうに」
「お父様、逃がすなんて仰らないでね」


「捕れたの?」
「ええ。一匹だけ」
「あなた、蛸は一杯、二杯と数えるのよ」
「あたし、お父様は昔からタコに同情しすぎると思うわ」
「お父様はね、昔タコだったから」







蛸壺。ぎりぎりまで書けなかったわりには複数書いたうちの最初の蛸壺。いや、複数蛸壺を書いたわけではないです。