ごとり

 小鳥を飼っているの。
 確か、彼女はそう言っていた。内田さんがその場にいて、内田さんがうちの課にかわった直後だったから、春先の頃か。
 部屋の隅にケージが置かれていたのだった。空だった。手に乗るの、というはしゃいだ声、可愛いを連発しやたら嬉しそうに話していた彼女の声が蘇り、とりあえず見なかったことにした。
 と、テレビも音楽もかかっていない静かな部屋の中、ごとり、という音が響いた。更に間をおいてもう一度、ごと、ごとり。テレビの横に置かれた棚の水玉模様のカーテンのかかったその奥、だ。
「幸ちゃんちょっと、ごめん」
「はいはーい」
 お盆にコーヒーカップを二客乗せて彼女が現れる。
「あの棚」
 と説明するまでもなく、再びがた、ごとり。
「あぁ、ちいちゃんまたなの。あ、佐藤さん、鳥ってだいじょうぶですか?」
「うん、別に」
 彼女がカーテンをめくると、倒れたDVDの間に鳥がいた。ニワトリくらいの大きさの、たぶんニワトリだ。
「すっかり大きくなっちゃって。ちいちゃん、ここ好きみたいで。でも、お利口なんですよ、トイレはだいたいはソファの上ではしないんです。いいこ」
 抱きかかえて、彼女は春先と同じ音色で、語ったのだった。



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第17回の競作のタイトル「ことり」、じゃなくて「ごとり」。