巡る季節(梅雨)

「雨降らしの仕事」

 わしの仕事はもちろん、雨を降らすことだよ。具体的にはまあ、説得だな。
 雨。雨の宝庫と言えばここ。な、海だろ。海の水つぶ、ひとつひとつにさ。忘れてるかもしれんけど、あんたさんは前、雨だったろ、ざあざあ、ぽつぽつ、しとしと、ぱららら、雨だったろ、って。昨日今日雨だったやつはたいていすぐ思い出すし、十年前百年前雨だったやつは長々と考え込んでるね。あるいはこっちの言葉をさっぱり聞いてもくれんかったりな。いや、全然雨だったことのないやつも、いる。でもいいんだ。そいつをその気にさせるのが大事なんだよ。それは詐欺じゃないかって、詐欺じゃないよ。そうだな、わたしは雨だったかな、あの空の上から降ってきたんだったかな、ってな、そういうイメージを海面に浮かべて空に持ち上げて行くだけで、やつらは実際空に昇って行ける。
 まあ、そういう寸法だ。昇ってったらあとは降るだけだかんな。ただ数が多いからな。