「スイーツ・プリーズ」天岩戸
いつかのように、家族みんなで、うちの縁側で、月見をしていた。すると、
「お団子じゃなくて、イチゴパフェがいいな」と、月が言った。エラく高い声だった。
驚いた。妻が横で、「似合わないよ」と、呟いていた。本当に似合わない。
という、まあ、夢を見た。
時計を見ればごく昼に近い、11時である。
だからその、続きであろうか。
「新月お昼寝お月様、コウコウ照ってるコンビニの、バナナキャラメルプリンシューチョコアイス、食っべません?♪」
縁側の脇を通ると、変な歌を歌う我が娘と、我が母がいた。
更に、ずらりと並べられたコンビニスイーツ。
「何してるんだ?」通り過ぎようかと思ったが、休日で、昼近くまで眠りこけ、気力がややあったので尋ねた。
「お月さま、呼んでるの!」と娘。
「お月さまって、今、昼だろ」
「何言ってるの、お前。新月は昼に昇るんだよ」
「ああそう……。新月なら、見えないんじゃない」
「だからぁ、お顔を出してくれるようにこうやってお供えしてお祈りしてるんじゃないの」
「はあ、なるほどなるほど」さいですか。「あ、お父さんな、お月さんが食べ残して余ったら、そのバナナのやつ食いたいな」
と、言った、そのあとだった。
スルスルスルスル……と綱、にくっついて降りてきた(どこから? 俺の家の、庭の、上から)、うさぎうさぎうさぎうさぎ。見上げると綱はどこまでも高くから伸びており、落ちてくるのはみんな白うさぎ。ぽとんぽとんと綱から落ち、跳ねて、1m20cmの距離を取り、我々を囲むように陣取った。まるで何かの作戦のようである。
我々三人は──おそらく娘も、母もだろう──しばらく驚いていた。
やがて娘がコンビニスイーツを庭にひとつずつ置き始めると、それを端から咥えて逃げる白うさぎ。全部置き終わったわずか一秒後、最後のうさぎが白プリンを咥えて、隣家との境の垣根をくぐって、行ってしまった。
俺は──おそらく娘も母も──まだ驚いていた。
空から降りてきた綱はもうなかった。コンビニスイーツのほうがうさぎより数が少なかったはずだがうさぎももういない。
縁側の上に、でかいコンビニ袋がくしゃっと置かれている。
改めて見上げる、雲のない空。
■ 四分の一反省会
あ、天岩戸じゃない!