「瓢箪堂のお題倉庫」から(ふたたび)

「沈殿都市」

 マドラーでくるくるっとされると、途端にぎやかになる。カチカチと鐘が鳴り、人を仕事場へ、友人の家へ、買い物へと送り出し、郵便局を、学校を、噴水を人の元へと追い立てる。みんなちゃんと着けたかな、友人はちゃんと家にいたかな。昼はすべてが慌ただしく、それでいてすべてがふわっふわっとしているこの街で、そんな心配は無用だ。やがて、浮き上がった家も、人も、ビルも、電柱も。猫も、鉢植えも、役場も、たばこ屋も、ゆっくりと次の場所に沈んでいき、夜になる。ここは夜の間も少し、ふわっふわっとする。ほろ酔いの心地で眠る。



「胡桃割り人形の錯乱」

 トイレから戻ると、テーブルの上にあったはずのコーヒーカップが床の上で無残な割れ方をしていた。
「こいつが、ごめんなさいって」
 息子は握りしめた胡桃割り人形を私に差し出した。


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昨日に続いてタイトルはどっちも五十嵐さんところから。
「胡桃割り人形の錯乱」。あんまりお話的じゃないけどー。