「エジプト土産」

「なんにします?」
「あれどうだ、18個入り1050円」
「いや、それエジプトじゃなくてもいいでしょう。ていうか、むしろエジプトじゃないですよ。あ、つぶ餡もありますよ」
「お前は知ってるのかよ、エジプトに饅頭が存在するのか否か。中国なんかにはあるだろ」
「友人が行った時には、パピルスでしたっけ、その紙になんかエジプトっぽい絵の描いてあるのをくれましたよ。言われますよ、エジプトがブラジルでも変わらない、このタイトルでなくてもいいって」
「タイトル競作だと思うからそうなるんだ。自由題だと考えてみろ、まったく問題ない、自由だ!」
「で、これはタイトル競作ですね」
「作中人物がそんなこと気にするんじゃない」
「自分が作中人物であることを気にするほうがどうかと思いますけど。あーあ、もっとのびのびできないものですかねえ」
「はは。のびのび、結構だ。のびのびしてたら評価が厳しくなるな」
「エジプト土産が饅頭ってほうが厳しいと」
「作中にタイトル入れたらダメ!!」
「会話文は叙述トリックのフェアプレイからも解放されているのに! あ、台詞間違えた。ええと、『これもう心臓のタイトル競作以外の場じゃなんのこっちゃ作品になっちゃったじゃないですか』」
「『のびのびしてみた』。話がぶれるぞ」
「ぶれるっていうか、変でしょう。分岐しちゃいますよ。『逆選狙いですね』」
「『ふふふ』……ふ」
「『は』」
「……。ま。出るか」
「ですね。乗り遅れますし」
 自動ドアが開いて、閉まる。遠ざかって行く声がする。
「なあ。なんにする、土産」
「やめてくださいよ。もっと違うこと考えましょうよ。着いたら何食べるか、とか」
「楽しみだなあ、北海道」




−−−−− キ リ ト リ −−−−−

500文字の心臓、第98回タイトル競作書き直し分
 投稿分には誤字のたぐいがふたつほど(「方が」と「ほうが」が共存、「このタイトルでもなくても」→「このタイトルでなくても」)ありまして。はははー。
 松浦さんが「書き手の個性が良く出ている気がします。良いタイトルですね」って仰ってましたが、自分もほんとそうだったな、と思いました。この手のを書くの結構好きなんですよね。
 700字弱になりました。500字と比べるとかなり長いですね。1.4倍だものな。続き書いてます。