「君と法螺との間には」

 さらさらとした砂は、グラニュー糖のようであり、グラニュー糖のようでなかった。
 それならブラウンシュガーに似ているのかといえば、全然似ていない。波がこんなに洗っているのに、溶けもしない。海に溶けているのは塩であるし、砂糖が溶けているのが海であるのなら、海は今のとは違った色になったのではないか。
 何色だろう。
 コーヒー色。それは夜の海。なんて塩辛いコーヒー。飲めたものではない! 砂糖が溶けているはずなのに。
 連日で来た海は、家から近くない。徒歩一時間半。行きの一時間半と、帰りの一時間半の間の三十分を、私は波打ち際で、ほんの足元のところばかりを見て、じっとして、過ごす。ほうら、海の端っこ。波はやって来ては戻って行きやって来ては戻って行きし、砂を大雑把に、けれどしつこく洗っている。君は砂地をふんふんと歩き回り出し、私はふんふんと砂と波を観察している。
 今日もまた、君は持っていたボールを投げて寄越す。ぽてんとボールが呟いた。
 波は行ったり来たり行ったり来たり。それとも、やって来ては消えて行きやって来ては消えて行き、だろうか。私は、諦めてボールを取りに来た君の頭に、そばにあった空っぽの貝をちょんと載せた。
「似合う、似合う」
 君は動いて、小さな渦巻の貝殻を落した。手を差し出すと、ボールを載せてくれる。
「ほらっ」
 掛け声の割りにボールはあまり飛ばず、君は追いかける。波はやって来ては引いて行く。
「よし」
 立ち上がって砂を払った。君はやって来て、ボールを寄越した。投げると、気持ちいいほどに飛んで行ってしまった。今日は日曜日だった。


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第104回タイトル競作:君と法螺との間には
投げる、のままにした。
あるいは、「投げたままにした」。(おい。
脱字があったのはちょっと痛恨。最近ちょこちょこあるからなあ。