続きの話

つめたい猫の町

「つめたい猫の町」 ある冬の日、つよい風とともに、比較的あたたかなこの町に、めずらしいほどたくさんの粉雪が、朝から降り、つもった。 日が落ちる頃には、30cmほどになったが、空が間違いに気がついたのか、雨になり、その雨も、ほんの少し雪の上をぬら…

「気がつけば三桁(推敲回数編)」

(推敲し過ぎて残ってない) ■ コメントそれは推敲なのか。

11月上旬(昼)

空になんもない。(あ、太陽はあった)ほそっこい黒と白の猫と真っ黒の猫が掛け足。(こちらを窺いつつ) へび/ながすぎるについて 蛇が長すぎるのなら、「みみず/適切」とかどうかと思ったけれど、どうやらそんな意味ではないようだった。どうやら、とい…

「外れた町」

昔、分譲地の抽選があって、もちろん外れたのだった。だから町は、こんな辺鄙な所にあるのだ。昔、というのが正しいのかよく分からないほど他の町たちと離れてしまった。この町は──別の宇宙である。別の言い方をすれば、この町だけ宇宙の外にある。 何かの罰…

月見

「月見」 年のせいか、この頃、ちょくちょく月見をしてしまう。打ち合わせ中の資料の上だとか、街の中で前を歩く人の背中だとか、あちこちに現れる月を、気付くと、ぼうっと眺めている。月を見ると決まって団子が食べたくなって、元々食べなかったものだから…

「エジプト土産」

「なんにします?」「あれどうだ、18個入り1050円」「いや、それエジプトじゃなくてもいいでしょう。ていうか、むしろエジプトじゃないですよ。あ、つぶ餡もありますよ」「お前は知ってるのかよ、エジプトに饅頭が存在するのか否か。中国なんかにはあ…

「夜」雲は遠く、月はもっと遠く、星は延々と遠く、もっと遠くの月に、照らされた遠い雲から、のぞいている夜はすぐそば 「夜」隣の町を歩く。町中の猫が黒猫になっている。外灯に、窓明かりの光は、昼間の猫の色が、どうやら混ざっている。あの窓の明かりは…

「コメントの投稿の仕方」

1. まず適量のお湯を沸かします。 2. 沸いたら、コーヒーや紅茶や牛乳や熱燗など、お好みのものを飲んで一息つきましょう。 3. 一息ついたらお風呂に入って10まで数えます。ここで、「2」で熱燗を選んだ方は酔い具合に充分気をつけます。 4. おやすみなさい…

「瓢箪堂のお題倉庫」から(たびはみちづれ)

「ゆらりゆらら」ゆうらんせんにのったらくだにのったりすがゆくゆきさきはらくだのみぞしるらくだはきいてもこたえないゆうえんちにいきたいらくだについていきたいりすいっかのあわいきたいゆうえんち……らくだのこぶにてつぶやくらくだはむごんゆうばりめ…

「瓢箪堂のお題倉庫」から(たびたび)

「最後の楽団」 その国は小さかったけれど昔から音楽が盛んだったし、代々の王様は音楽を愛し、音楽家というものを大切にしたから、国には多くの素晴らしい音楽家、音楽教師、楽器職人が育った。至るところに音楽家がいた。六歳のバイオリニスト、そして九十…

「瓢箪堂のお題倉庫」から(ふたたび)

「沈殿都市」 マドラーでくるくるっとされると、途端にぎやかになる。カチカチと鐘が鳴り、人を仕事場へ、友人の家へ、買い物へと送り出し、郵便局を、学校を、噴水を人の元へと追い立てる。みんなちゃんと着けたかな、友人はちゃんと家にいたかな。昼はすべ…

「瓢箪堂のお題倉庫」から

「空中花」秋の終わりは種まきをする。屋根に向かってえいやえいやとまく。ぱらんぱらん。おいしくないので鳥は食べない。冬がやってきて雪をどっかと置いていく。春一番は行き過ぎて、それを追い越す春二番。誰も見てない屋根にて芽が出る。屋根から見えな…

またふたまた

「呆れた」 と、里芋を剥いている母が言った。「またなの」 またなのだ。またというか、またのまたのまたのまたなのだ。「いいじゃないの、めでたいことですよ」 レース編みをしている祖母が言ってくれたので、わたしも、「そうだよねえ。四十年も長生きでき…

ごとり

小鳥を飼っているの。 確か、彼女はそう言っていた。内田さんがその場にいて、内田さんがうちの課にかわった直後だったから、春先の頃か。 部屋の隅にケージが置かれていたのだった。空だった。手に乗るの、というはしゃいだ声、可愛いを連発しやたら嬉しそ…

「もう寝るよ。」

もっかい、ってそれさっきも、その前も言ったろ、ほらほらパパの方が寝ちゃいそうだ。昼間にはママに読んでもらって、自分でもくりかえし読んで、おまけに散歩にまで連れてってくれて、きみがこのお話のコブタ氏をお気に入りって気持ち、僕だってよーく分か…

クリスマスプレゼントをもらえる予定で夜更かしする子は要注意

サンタクロースの苦労は多い。まずトナカイのソリと仲良くなる苦労。みんながみんな最初から格好良く乗りこなせると思ったら大間違い、これが実に一苦労だ。たった一日のために一年間の特訓! 煙突を通り抜ける苦労は昔よりずっと減ったが、そのぶん煙突の代…

10個のお題

が、三里アキラさんから出ていたので勝手に参加!その前に三里さんへ一言お礼を。 難しいよ!(笑)ふつうにタイトルにして、超短編風(風?)にしました。しました、というか、途中です。では。1.良いクラッカー 引き出しの中で眠っている。パーティーの間…

「笑い坊主の行方」

彼のことをご存じだろうか。笑いが沸くところに彼も湧く。笑う門には彼が湧くのである。一度の笑いに一つの彼。わっはっは、くくっ、ふふふふ、ひーっひっひ、けっ。ぽこぽこと湧く、たくさんの彼。 と、それはいいのだが後始末の話。いつまでも笑っている訳…

「シンクロ」

雨は好きじゃない。空が暗くなる。あいつは雨が好きなんだと言ってた。 雨音は嫌いじゃない。どうせならザアザア降るやつがいい。あいつは雨音の中にメロディが聞こえると言ってた。雨の降るときどきによってそれぞれ別のメロディなんだそうだ。何を指してそ…

「たぶん好感触」

土星が折り入って相談があるって言い出す。みんな聞いてて聞いてない振り。輪っかについてなんだけど。スピカが笑い出す。ねえ、そっち行っていい? スピカはにっこりした。みんな笑ってる。笑いながら離れてく。土星だって離れてく。 オモウツボとアシカラ…

「梅雨」

梅雨が来ると、彼は帰っていきます。梅雨のない場所では、彼はずうっといるのか、全然いないのか、どちらなのでしょう。どちらも同じことかも知れませんけれど。気象庁の梅雨入り宣言の後にのろのろと帰っていくので、こちらが好きなのかなと思っていました…

「鳩と豆電球、電信柱の上に鴉」

一ヶ月、電柱の陰で何をしていたかと言えば、電柱の観察だった。ぴったりと寄り添ってなめるように観察……していたわけではなくて、道を挟んで少し向こうの、別の電柱の観察をしていた。ほっそりとした、きれいな電柱だった。対して、私が寄り添っていた電柱…

いつかにわとり豆になる 2

おそらくは世界規模の、強力で繊細な暗号化組織が存在している。彼らはささやかなものも見逃さない。いや、ささやかなものをこそ狙うのではないか。その、私たちの書き残した記述から私たちが注意を逸らした間に──とは言っても、彼らは用心深く、たとえば、…

「出していたらタコ被りだった頭蓋骨を捜せ」

わたしにぴったりなのが見つかったと思えば中には確実に先客が入っている。とかく世の中とは上手くいかないものである。あちらによさそうなのがありましたよ、などとわたしがいってもあからさまにあやしい。魂胆まる見えというものだ。だいいち嘘はいけない…

「四つ、ひみつの話」

つるとつるはし うしろで、つるが、じっと、振り上げられたつるはしを見ている。 おやおや、似ているな、と思いながら。 その距離、五十メートル。とりは目が良く、用心深い。 そうして、ひとがつるはしを振り下ろし、カツン! と言わせるのを見る。 つるは…

「裏山のはて」

そこは地球上、さらには日本、というか子どもの頃から慣れ親しんだ勝手知ったるうちの裏山だったのだが、夜だったのもあったのかもしれない。夜中にふらふらしていて、たぶんほとんど頂上の──大した山ではない──木も何もないはずのその辺りで、ドンッ! と当…

「春の椿事」

日差しのあたたかな水曜の、買いもの帰りだった。見事なパンジーの花壇にひとつ、チンパンジーが咲いているのを見つけて屈みこむと、黒い目がこちらを見ているのが分かった。わたしがじっと見つめてしまったからか、きょろきょろとする。かわいそうに思って…

「スクリーン・(アンチ?)ヒーロー」

親が共働きで、一人っ子だったわたしは、何かあると車で十分ほどの叔母夫婦の家に預けられた。叔母は専業主婦だったので。例えば、両親の結婚記念日の旅行や、町内会の集まりの時、わたしが風邪を引いた時、あるいは理由を告げられないまま。わたしは、叔母…

「黒い羊」

「だいたい角が無いのにな」 「見間違えたかな。寝ぼけてたんさ」 「今年もまたその話?」 「『寝ぼけてた』! それこそが、だって、わたしたちだっていう証拠だわ」 「やだ、集団の私たちを見ても催眠効果なんてないよう」 「あれ、知らなかった? あるんだ…